コローニアについて(1)

ベアレンの周年記念ビール「コローニア」は、ドイツでは「ケルシュ」と呼ばれケルンの特産ビールとして有名だ。
ベアレン醸造所が、創業当初初めて製造したビールの「コローニア」。その当時のストーリーをかいつまんで紹介する。

「ケルシュ」ではなく「コローニア」

創業当時、私達は、「とにかく飲み飽きしないドイツ現地のケルシュの味わいを盛岡で再現できたら、かならずリピートしてもらえるだろう」と思っていた。そのため、ケルシュを選択した。
地ビール解禁の1994年から、日本国内で「ケルシュ」という名前はビアスタイルとして聞かれていたものの、「ケルシュ」という名前自体が保護されているとは知らなかったと思われる。そのため、当時から「ケルシュ」という商品名でビールを販売していた日本の製造者は多かった。

ドイツのマイスター的にはタブー

ドイツには「ケルシュ協定(Kölsch-Konvention)」があり、「ケルシュ」について厳格に規定がある。その中に地理的表示保護制度(Geschützte geografische Angabe、略称g.g.A.)がありケルシュは、名称を保護されている。
ベアレンの初代マイスター、イヴォは、「ケルシュはケルンで造るから、ケルシュであって、日本で作ったらケルシュとは呼べない」と説明してくれたため、ベアレン醸造所では「ケルン」の名前の由来になっているラテン語の「コローニア」を商品名につけることになった。ケルシュのように認知度はなかったものの、「なぜ『コローニア』なのか?」という事を説明しながらビールの説明をすることは、当時の私にとっては「まさに文化を伝えている」という実感があった。

「ビアスタイル」と「ビアカルチャー」

ケルシュは、ビアスタイルが有名でその味わいに注目されがちだが、実際にはビアカルチャーの方が特徴的といえる。
「シュタンゲ」と呼ばれる200mlの棒状のグラスを使用し、「ケーベス」と呼ばれる給仕が「クランツ」と呼ばれる拳銃のリボルバーのような穴の空いたお盆を使用してケルシュを運ぶ。飲み手は、おかわりを要求する必要はなく、自動的におかわりがテーブルに置かれる。
この「わんこそば」的なビールの注文(もしくは配給?)制度は、ケルンのケルシュ、デュッセルドルフのアルトで見られる独特のもので、世界的に見ても珍しい。

リスペクトするからこそ、安易に真似はできない

ケルシュの歴史的背景、ビアカルチャーの両方をリスペクトしているからこそ、安易に「取って付けたような」真似はできない。仮に、そのビールの名前や提供方法を模倣したとしても、ベアレンのビールとして地元に根付かせることは難しかっただろう、と今でも思う。
2003年4月26日に、ベアレンが「ベアレン初仕込みビールを飲む会」を盛岡市内の飲食店で行った際、多くの方に「コローニア」だけをとにかくたっぷり飲んでもらった。
要するに、ベアレンがこのビールを通じて大切にしていた価値観は「たくさん飲めるビール」。

「飲まさるビール」が大事

グラスはシュタンゲではなかったが、当時この会に参加したお客様は、平均4L程度飲んだ。盛岡弁で言えば「飲まさるビール」。これこそが、ビール文化の根幹だと思っている。

2023年5月10日 高橋司

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