「黒」という名前のビール
ドイツ語で「黒」を意味するシュバルツ(Schwarz)は、ベアレンで創業翌年からスタンダードビールとして販売し続けてきた。当時の状況を説明しながら魅力に迫りたい。
「黒」の時代背景
決して「暗黒」というネガティブな意味ではないのだが、日本における歴史は浅い。
2003年、ベアレン醸造所創業時には、日本国内で「黒ビール」といえば、ギネス社の「ギネス・スタウト」が有名だった。まさに黒ビールの代名詞として「黒ビール=ギネス」と認知されていた。一方味わいの認知としては、「濃い」「苦い」「飲みにくい」というネガティブなイメージもあり、市場においては「玄人好み」に感じられていた。
ビール業界における世界の多彩な黒ビール
当時から言えたことだが、ビールを「黒」という色合いでカテゴライズした場合も世界的には多彩なビールが存在していた。
シュバルツ、スタウト、インペリアルスタウト・・・などなど。
特に私達が当時から気になっていたのは、ドイツのケストリッツァー醸造所(Köstritzer Schwarzbierbrauerei)の「シュバルツ」だった。この醸造所はライプツィッヒより南東に位置するバート・ケストリッツ村の醸造所で、その歴史は古く1543年から450年以上続く老舗醸造所だ。その味わいはギネス社とは対照的で、飲み口は軽く、苦味もすくない。ドイツのビールらしく、ビール純粋令に尊守したクラシカルな造り。伝統の逸品といえる黒ビールだ。
変化球を中間球へ
ベアレン醸造所における商品開発のベースには「中間球的思考」が存在している。
(中間球的思考については、クラシックの記事を参照)
当時の日本においては「黒ビール=変化球」という認識だったが、シュバルツについては、「黒」という色合いを除けば、まさに「中間球」。
色合いからは想像できない、軽さと飲み口。ホップの苦味は非常に少なく、麦芽のロースト香による香ばしく芳醇な味わいは、当時日本国内の地ビール市場ではあまり見ることが無かった。
歴史あるシュバルツを、クラシカルな製法のベアレン醸造所から。
そうなると、ベアレンから「シュバルツ」を定番ビールとしてラインナップに加えたのは必然的とも言える。2004年から19年間販売し続けて来て、色々なご感想を頂いたがなかでも象徴的なもので「黒ビールは苦手だが、これは飲める」というものがあった。
「黒」と一言で片付けられてきたビール市場において、「黒だが飲める」という感想は、マーケット的には新たな市場を開拓した事を意味する。
このことは、「世界のビールの豊かさを紹介した」ということではあるが、私達が選んだ「ベアレンらしい『クラシック(古典)』なビール」が受け入れられた気がして非常に嬉しく思う。
2023年4月19日 高橋司
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