醸造所の年代、というのは、その醸造所の歴史を象徴する「わかりやすい数値」である。たとえば、300年前の創業の醸造所、聞くと、私などは興味をそそられるし、それだけ事業が続いているという事だけで尊敬してしまう。加えて、そこに(飲み手の勝手な思い込みだが)ロマンを感じずにはいられない。しかし、実際に現場に足を運んでみたら、最新の設備を使ったビール製造をしていた、などという例はよくある。
歴史ある醸造所≠歴史的なビール造り
こういった時、私の正直な気持ちはこうだ。
「古い醸造所だ、って言っても伝統的な造りを踏襲しているとは限らないんだな」。
こういった「自ら勝手に抱いた期待値を裏切れた」時の残念な気持ちは、ビールを飲んでも払拭できない。、そもそもなぜ「勝手に期待値を高めてしまった」のか。これは、多くの人がそうであるように、歴史ある醸造所=歴史的なビール造り、という認識で飲み手は飲んでおり、そこに現実との差異が生じている。
最新設備で造るトラピストビール
修道院ビールなどは、正にそういった「歴史ある醸造所」の典型的なもの、というイメージが強い。しかしながら、その現実は真逆。それ故、実際に現地に行くとギャップに驚くことも多い。中でも有名なトラピストビールなどでは、修道士が木の棒を持って製造をしているわけではなく、ほとんどの醸造所は最新鋭の機械を導入して製造している。(事実、私がオーストリアのトラピストビール「エンゲルスツェル」を訪問した際に目の当たりにしている)
それを知ったからといって味わいが変わるわけではないが、やはり飲み手は、醸造所の歴史を大切にしているし、同様に「今」も大切にしている。
歴史的なビール造りは、歴史的な設備があって成立する
一方、年代物の醸造所、の方はどうだろうか?
醸造所の年代、ではなく「醸造設備や造り方」自体が年代物の場合、ボトルや外部からの情報では判断し難いため、それ程(飲み手としての勝手な)期待をしていなかったりする。ところが実際に足を運んでみて「ウソだろ!」と思うような設備が現役で稼働していると、「なぜそんなことを?」「いったいいつから?」と期待を大きく上回る。そういったときは、飲み手として興味が絶えることはない。
飲み手が感じる「歴史」とは?
上記のことから言えるのは、飲み手が感じる歴史とは、BREWERYVINTAGEではなくVINTAGEBREWERYのほうではないだろうか、ということだ。工業化が進むビール業界において、歴史的なビールづくりができること、は非常に価値がある。ベアレン醸造所は、間違いなくVINTAGEBREWERY。普通にビールが好きな方から、お酒に関わる方、業界のスペシャリストまで歴史を感じることのできる醸造所だといえる。
2021年6月5日 高橋司
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