ポートランドの山 Mt. Hood と日本の富士山Mt. Fuji をシンボルに掲げて、両国をつなぐビールを造り交流しようと始まった Hood to Fuji。そのイベント参加にあたって、ポートランドのSteeplejack brewingとコラボし醸造した数量限定ビール。
コラボ&コンセプトビールの魅力
今回のビールは、コラボレーション前提の製造となっている。
この企画の面白さは、「ポートランドのどの醸造所とコラボレーションするのかわからなかった」ということにある。
イベント主催者の選択によって、引き合わせられた日本とポートランドのブルワリーが、連絡を取り合って(まだ一度もあっていないのに)お互いの魅力、特徴を紹介しあって、商品開発をおこなう。これはまさに令和のブルワリー「パンチdeデート」だろう。
独自ルールの範囲内で
このHood to Fujiコラボレーションは、オレゴン産原料を使用して日本のブルワリーが仕込む、というのがルール。ベアレンのバディ(相棒)となったSteeplejack brewingとの間で議論を重ねてきた方向性としては、ベアレンの設備特性である120年前のクラシカルな銅製の仕込み機能を活かし「ベアレン クラシック」をベースに、オレゴン州ポートランド産のハーブ(イラクサ、セージ)を使用した、オリジナルのハーバルラガーを製造することだった。
ハーブを使用する難しさ
そもそもビールは、歴史的にハーブが使用されてきた経緯があり、相性は悪くない。
10世紀ごろまでは、ハーブをブレンドした「グルート」と呼ばれるもので苦味や渋味などの味付けをされきてた。しかし、ホップが発見されて以降、「そもそもグルートが果たす役割とは?」ということが見直され、第一義的には「微生物に対する抗菌力」を求めるようになり、グルートからホップに切り替わった。
つまり、「ホップorハーブ」ということが歴史的にあっても、今回のように「ホップ+ハーブ」というビールは、世界的には少ない。ハーブを加えて味わいを重ねていく「足し算」の理論でビールの味わいを設計していくと、今までにない組み合わせが生まれ、複雑さを増していく。
そのため「どこまで許容するのか?」という価値観で製造するため、正解はブルワリーのセンス次第、ということなのだ。
ハーブとホップの特性とバランスの限界値
今回のビールには柑橘系の香りのするドイツ産ホップを使用し、オレゴン産ハーブ由来のミントや草原のようなアロマをバランスよく重ねている。面白いのは、ホップの香り、苦味の切れの合間にハーブ由来のアロマが嗅覚を刺激してくるのだが、ホップとのバランスによっては、上手く切れてゆく。ハーブのアロマの切れ際にホップの香りが重なる瞬間、いわゆる「ビールの飲み終わりの質感(Mouthfeel)」が一体感をつくるところだと思う。
味覚と嗅覚が認知できるバランスだと思うのだが、この一体感については「ハーブのアロマを最大限感じられ、香りの切れる限界値」を求めた結果のバランスと言える。
当然ならが、味わいの基本となっているのは、麦芽の「重量感」。
ベアレンクラシックだから、ここまでハーブのアロマを感じられるラガービールになったと考えられる。
ネーミングセンスは、Steeplejack brewingのアイディアから
ポートランドから発送したハーブが輸送途中で行方不明になった。
何とかギリギリで日本に届きビールが完成した。そんな中、商品名について最終のディスカッションの中でSteeplejack brewingより「途中で原料が迷子になった」というストーリーを “Lost in Transit” という形容詞として使用したらどうだろう?とういう提案があった。プロセスまでも余さず、商品に取り込む姿勢は、ベアレンにとって学ぶべき点が多かった。
我々には無いアイディアと出会えることも、コラボレーションの醍醐味といえる。
2023年4月27日 高橋司
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